瞼の裏側にはいつも笑顔の神様がいる


2、奇跡の夜

彼女の目は俺に向けられる事も無く、じっと遠くの方の一点を見つめているようだった。

その表情からも、俺はこれから話される事の予想が付いた。

そして、俺のその予想は当たる事になる。

「私は好きな人がいるの。今その方とお付き合いしているの。」

しかし、その後の話は俺の予想を超えるものだった。


彼女が勤務している病院で、彼女はその男性と出合った。

男性は病院の透析室の機器を操作したり、透析液を作ったりする「テクニシャン」と呼ばれる立場だった。

彼女はその男性の勤務する透析室に配属になった。

彼女の透析室での勤務は、非常に評価が高かった。

明るく真っ直ぐな性格な上、コンビニのバイトで培った要領のよさや仕事の早さが、彼女の評価を上げた要因

だったのだろう。

一方専門技術者であった男性は、話上手な人気者だった。

明るく仕事熱心な新人看護師と、男性としての魅力を兼ね備えた技術者が、恋に落ちるのにはそれほど時間はか

からなかった。

しかし大きな問題点は、その男性には既に妻子がいた事だった。


彼女とその男性の恋は燃え上がった。

男性が時間を作る事が出来る日は、殆んど側には彼女の姿があった。

男性にはそれなりの収入が確保されていた。

いくつかの彼女へのプレゼントも用意されていたが、彼女はそれを断っていた。

その男性の自分への想いを、形として残したくない。

それが彼女の気持ちだった。

いつかは終ってしまう恋だという事は、彼女の中では理解しているようだった。


「私は今の生活が好きなの。まだこの生活を続けたいの・・・。」

彼女は俺にそう言った。

「いつか終ってしまうものを、何故そんなに大事にするんだ。」

俺は自分のタイミングの悪さを嘆いていた。

彼女が仕事に就いてバイトを辞めたとき、すぐに言えば良かったのかもしれない。

俺はその時、フリーターとしての自分に自信が無かったのだろう。

俺が人としての自信を得た頃には、彼女は違う男性と過ちを犯してしまっていた。

「私、今の自分も必要だったと思える時が来ると思うの。だから・・・もうしばらく・・・。」

彼女の目は、まだ真っ直ぐに遠くを見つめていた。

彼女の目線の先には、誰が存在するか俺にはわかっていた。


「君は・・・人間を舐めている。いつかキツイしっぺ返しが来るだろう。」

俺は嫌な男だった。

愛する女性の過ちを正す事も出来ずに、悪態をついて去っていくのだ。

「俺は無能者だ。最低だ。」

俺は高校時代、その川の土手を走るのが日課だった。

土手には500mずつの標識が立てられており、どのくらい走ったかがわかる様になっていた。

俺は久しぶりにそこに訪れた。


「こんな体、ぶっ壊れてしまえ!愛する女も救えないような男は、生きていても仕方が無い。」

俺はそんな事を呟きながら、その川の土手をがむしゃらに走っていた。

午前0時を越える頃、春の生暖かい風が吹いていた。

がむしゃらに走る俺は、土手道の段差に足を取られ転倒した。

俺はしこたま地面に顔を打ちつけ、口からは鮮血が流れた。

「ちょうどいい、もっと壊れろ」

俺はもつれる足で再び立ち上がろうとしたその時、遠くで人の影が見えた。

その人は、よれよれのスーツ姿に見えた。

もっと目を凝らして見てみると、その人は先日事故を起こした俺の得意客だったのだ。

彼もまた、こんな時間にたった一人で水辺を歩いていたのだ。

俺は口から鮮血を吐きながら、しばらく彼の事を見ていたのだった。

つづく

コメント先: "もうひとつの幻想 ②" (16)

  1. キャロ の発言:

    ☆1バーン☆

    ハイ! せんせ! オブジェクション! 恋愛は突然降ってくるもんだから、たとえ不倫でも「アヤマチ」ではないし、すべての愛も恋も人生も イツカワ終わってしまうもの…

    ぎおんしょうじゃのかねのおと
    しょぎょうむじょうのひびきあり…

  2. 招き猫 の発言:

    キャロさん。
    いや、やはり不倫は過ちだと思う。
    しかし、そういのが必要な場合もある。
    必要悪だな。
    私は、恋は終るが愛は終らないと思う。
    終ってしまう愛ってのも、悲しいじゃないですか。
    無為やり愛を終らせる方法もある。
    自分を守るためにね。
    それは憎しみに変える事。
    私はそれは絶対にしたくないと思ってます。
    苦しんでも傷付いても、愛を持ち続けるんだ!。

  3. キャロ の発言:

    愛も死んだら終わるじゃーん。
    愛することが無駄だとわ思わないケドネ

  4. 招き猫 の発言:

    キャロねぇ。確かにね、亡くなった人からの愛は、あるかどうかわからないけね。でもね、今私は無駄な愛ってのを体験してますよ。わっはっは。

  5. さらん♡ の発言:

    猫さん
    こんばんわぁ.:。 ・.・*.:。 .・*…:。・.:。 ・.・*.:。 .・*…
    人を好きになるって・・・切ないですよね。
    「不倫」って言葉 この世で一番嫌いです。「倫理」って何を基準としているのかも分からないし・・・・
    もっともらしい宗教は 不倫を悪と利用してるだけだし・・・
    ただ いけない。それだけは分かりたいですが・・・・
    本人達は 真剣なのですからね・・・・
    わぁ~~猫さん 絶好調ですよv
    楽しみです.:。 ・.・*.:。 .・*…:。・.:。 ・.・*.:。 .・*…:。・
    この女性 辛いだろうなぁ>< 泣けます・・・・・

  6. 招き猫 の発言:

    不倫って、言葉がまずダメなんですよね。そこにもちゃんとした形の”愛”が存在します。しかし、相手を本当に愛しているのなら、そういう関係は回避すべきだと思うんです。身体以外の部分でだって、いくらでも分かち合う事は出きると思うし。最近、いろいろな人と話していて、こんな事を言われました。「好きな人と、拠り所のような人の違いって、何だろう?。」どこまでが不倫で、どこまでが愛なんでしょうね・・・。最終話は、明日UPします。

  7. ねす の発言:

    フィクション or ノンフィクション?
    友達のテクたち~「俺たちヒルも夜もテクニシャン!」って言っていたよ^^;

  8. わさび の発言:

    ずーっと走っとけ!何が幸せかなんて、その人にしかわからんだろ。

  9. 招き猫 の発言:

    あぐねすさん。そりゃ勿論、フィクションですよ。夜のテクねぇ、そりゃあった方がいいけどね、うんうん。

  10. 招き猫 の発言:

    わっさん。例えてええか?自分の女房も、子供も、浮気相手も、全て平等に愛してやれて、全てに満足を与えられる男ならば、幸せだろうね。そういう男はおらんとは言わないが、非常に稀なんじゃないか?。

  11. キャロ の発言:

    わっさんに一票。
    あと アイシテル人が死んでも愛は消えないが、自分が死んだら消えるデショってことを言ったんだよ。
    …そういう関係はセーブすべき…
    って だから恋は突然降ってくるもんだから、しょうがないのよ〜 好きになったら求めたい、動物だから〜
    って、アンタも しょーもない恋してるわねぇ。不倫はダメって人が…
    寝なきゃ裏切りにならないとでも、思ってるのか?

  12. 招き猫 の発言:

    キャロさん。まぁ、死んじゃった後のことは、死んで見ないとわからないけどね。終るって言えば終るが、何かの形で残るものかも知れん。それは死んで見ないとわからない事でしょう?。恋は突然降って来るのはわかるが、好きになったから、はい求めますって権利はないでしょ。それと、私はしょうもない恋も、浮気もしていませんよ。

  13. キャロ の発言:

    愛に形はないんとちゃう? 子供とかを愛の結晶と言ってるのかも知らんが、キャロが言ってるのは、自分の誰かへの愛は 自分が死んだら消えるデショ?そゆこと。

    まーあんましいぢめないどいてあげよう。アハハハ♪

  14. 招き猫 の発言:

    キャロさん。別に虐められてる気は無いが。死んだ後の事がわかると?。魂になってさまようって事は、絶対にありえないと?。それだって愛の形でしょう?。

  15. キャロ の発言:

    魂とか見たことないから、信じてないも〜ん

  16. 招き猫 の発言:

    キャロねぇ。んじゃ、私は子供の頃みてるから、愛は永遠って事ね。

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