瞼の裏側にはいつも笑顔の神様がいる

翌朝、招き猫は目覚めました。良かった、生きてた、死ぬかと思った。
私、どんな格好をしているのかなぁ。
いろいろ確認してみたりする。
”お○んちん”の先っちょに管が付いている。手術の傷は下腹部のようだ。腕にはまだ、点滴のチューブがはいっていた。そこで決心する。恐る恐る通常は在るべきモノの部分を触ってみる。
 
無い。
わかっていたはずなのに、現実を目の当たりにしたショック。
「もう、ヤツとは二度と会えないんだな。そう言えばさよならも言えなかった。」
等と、なんとなく少しセンチメンタルな事を考えてしまいました。
その日のお昼から、食事が出るようになりました。もう腹ヘリコプターです。
翌日から、歩けるようなら歩いていいという許可が出ました。でもまだ傷が痛みました。
ちょうど袋の下あたりに、ドレンという管が入っていました。中の余分な白血球を外に出す役割のものです。その、ドレンの先の白血球が染みたガーゼの交換と、手術の傷の消毒が、手術後の私の毎日の日課となりました。
当然、その処置は看護師さんがやるわけです。
そう、苦労して自分で剃毛した割に、私の重要な部分は毎日、日替わりで担当の看護師さんの目の当たりにされてしまう運命となってしまったわけです。
ところがこの処置。最初のうちこそ、こっぱずかしいのですが、慣れと言うのは恐ろしいものです。数日たつと、「おねがいしま~す」ってなもんです。
ガーゼが汚れて気持ち悪くなると、こちらから看護師さんを呼んだりします。「ま~だ~?」とか言って。
人間の順応性って恐ろしい・・・。
 
術後、はじめて家族を交えて先生との話合いが行われました。ムンテラと言うんだそうです。
「摘出した患部の病理検査を、群馬大学に依頼しました。その結果で今後の治療を決定しましょう。良性の腫瘍だった場合は、治療の必要はありません。そのまま退院していただきます。悪性だった場合は、化学療法という治療を行います。はっきり申し上げると、抗がん剤を投与します。化学療法の治療期間は3ヶ月を予定しています。」
「・・・先生の仰るとおりにいたします。」
もう、これしか言えません。
「先生、悪性という結果になる確率は、どの位なのでしょうか?。」
「まあ、私が見た所、ほぼ悪性といっていいでしょう。でもね、招き猫君はラッキーだったんだよ。この病気の発症率は、10万人に一人位なんだけど、ほとんどの場合痛みが出ないんだ。痛みが出たから診察に来たんだろう?。手遅れになると、肺やリンパ節に転移する可能性が高いんだ。君は本当に運がいいんだよ。」
 
ムンテラが終わり、カミさんと話しをしました。
「俺、運がいいんだってさ。そんで10万人に一人だって。年末ジャンボ手術だったんだ。」
「フフフ、宝くじ買おうか。」
「お前さ、俺がいない時に先生になんか言われてない?」
「何を言われるのさ。」
「いや、本人には言わないけど、死ぬかもとか、助からないとか・・・。」
「大丈夫だよ。あの先生は何も隠していないよ。ほんとだよ。」
「そーか。・・・約束しねーか?この先、もしも先生にそういう事言われたら、俺に言うって。俺さ・・・どうせなら戦って死にたいから。」
「わかった。約束。」
シロートの浅はかさですが、私はこの時、本当に死ぬ事を考えました。
 
3週間後、術後の経過も良く、ほとんど普通の生活が出来るようになりました。そしてようやく病理検査の結果が出ました。再びムンテラが開かれたのです。
「病理検査の結果が出ました。病名は、ノンセミノーマ、悪性でした。化学療法の内容を説明します。3種類の抗がん剤を5日間、点滴によって投与します。その後3週間の体力の回復を待ちます。これを1クールとし、合計3クール行います。この化学療法では副作用が発生します。髪の毛が抜け落ちる事、白血球値が下がる事、食欲が落ち吐き気をもよおす事です。つらい治療になりますが、招き猫君、がんばりましょう。治療は3日後から開始します。2日間の仮退院を許可します。お家でゆっくりしてきてください。」
今は治療の事は考えず、例え一時的にでも家に帰れる喜びを噛み締めよう。
 
仮退院の2日間は何をするとも無く、ごろごろしたり、家の中をうろちょろしたり、ネコの毛をむっしったりしていましたが、唯一治療の為にした事と言えば、スキンヘッドにした事です。
副作用で髪が抜け落ちると宣告されていたので、ここは潔く治療を真剣に捉えている所を、先生に見て頂きたいという意味も含めて、頭を丸めました。
 
あっと言う間の仮退院も終わり、再び病院に戻った私には、大部屋ではなく個室が与えられていました。治療中は白血球値が異常に下がるという事で、その間風邪などをひいてしまうと、取り返しの付かない事になってしまうからです。
ところが、この個室。なかなか快適でして、大きな窓は、全部自分のもの。空調も大部屋では自由にならなかったのですが、個室ではすき放題です。
大抵、病院の空調は温度が高めなので、空調を好きにいじれるのは本当にありがたかったです。
 
さて、いよいよ化学療法がはじまります。
点滴をするために、血管に針を入れます。ところが!私は血管が見つけずらい体質だったようです。
看護師さんたちのわたしの評価は、
 
難易度A!
だったようです。看護師の皆さんさん、申し訳m(- -)m。
 
そしてその点滴から、抗がん剤の投与がはじまります。
入れ始めた時は、まぁ、なんてことは無いのですが、1時間、2時間もたつと胸がむかむかしてまいります。3時間も経つ頃は、恐ろしいほどの吐き気に襲われます。
乗り物酔いをした事がある方はわかると思います。あれの強烈なのが24時間体制で、1週間ほど続くのです。
出産経験のある方、まさにつわりのヒドイやつとお考えください。
食事は勿論、水さえも口にするのが嫌になります。食べ物の匂いを嗅いだり、ひどい時は想像するだけで、”うっ”となってしまうのです。
吐き気と共に強烈な倦怠感が、私を襲います。ベッドで横になって息をするのがやっと。とても体を動かす気にはなりません。体を動かす事が出来れば、気を紛らす事も出来、吐き気と戦う上で大きな武器となります。しかし、そういった事も抗がん剤は許してくれません。
ただぐったりしながら、ひたすら襲ってくる吐き気と戦うのです。
抗がん剤は1クールで5日間投与されます。投与後、2日間はこの吐き気、食欲不振、倦怠感に24時間体制で悩まされます。
抗がん剤投与後、吐き気など、私自身が感じられる副作用の他に、白血球値が下がるという副作用が出ます。健康な人で8000という値が出るのですが、私はそれが一番ひどい時には1/10程になりました。普通の人ならば何てこと無いただの風邪でも、抵抗力を失った私の体は、命を落しかねない状況になってしまうのです。
 
この時、初めて個室に移る事を許された意味と、2度目のムンテラで先生の言った「招き猫君、がんばりましょう」という言葉の意味を理解しました。
この治療を、私は3ヶ月間耐えたのです。
確かに私は生還することが出来ました。
しかし、招き猫は頑張った!という事を伝えたいのでは無いんです。
私よりも、もっともっと頑張った人がいます。
それは、私の入院中に1日も欠かさずに私の病室を訪れ、私のいない間大切な我が家を一人で守ってくれたカミさんです。
あれから6年以上もの月日が流れました。あの時のカミさんへの感謝の気持ちを忘れないように、この記事を書こうと思いました。
ここに訪れ、記事を読んで下さった皆様。
病気は私たちの都合など全く無関係に、ある日突然にやってきます。どうかお体にお気を付けください。月並みな言葉ですが、気を付け様も無い事もあるとは思いますが、それでもあえて言わせてください。どうか、お体にお気を付けください。あなた自身のために、そしてあなたの大切な人のために。
 
そして、現在闘病中の方、リハビリなどに励んでいらっしゃる方。
闘病生活を少しふざけた形で書いてしまった事、不快に思われた事でしょう。
本当に申し訳ございません。
闘病中、リハビリ中の皆様に、1日でも、1秒でも早く、元の健康なお体が戻ることを、心からお祈りいたします。
 
長い長い独り言に付き合っていただき、本当にどうも有難うございました!。
 

コメント先: "招き猫の闘病生活・後編" (14)

  1. こんばんはぁ!なんだかあっけらか~んとしてる招き猫さんですけど実はこんなにつらい経験をされてたんですね(ノヘ;)抗がん剤投与まで・・・!人はつらい経験を乗り越えて強くなるのですね。そして人の優しさを知り、優しくなれるのですね。私も恐れずいろんなことに挑戦しよう!いつ何が起こるかわからないですもんね><改めて感じました。

  2. 真志帆 の発言:

    こんばんは、まるです思わぬところでこっそり通っていたのがばれちゃいまして・・・ちょっと気恥ずかしい(照)それにしても壮絶というか、なんというか…ワタシにはとても絶えられないかも知れません。ラッキーさんの立場も奥様の立場も!!!なんだか鼻の奥のほうがジーンと熱くなりました・・・宝くじは当たりました?

  3. PAZOO(-_-)zzz の発言:

    いやあ、最初はキンタということで、クスクスしてましたが‥‥‥、壮絶な病気ですね、、、考えさせられます(-_-)

  4. 綺香 の発言:

    こんばんは、紫です。私も他のみんなと同じ意見・・・・。壮絶な病気になったのですね、「あっけらかぁ~ん」と書いちゃっていらっしゃるみたいですが。。。私は顎関節症ではありますが、健康診断でも(保険適用外のドックにも入ってみましたが)何しても、まっっっく悪いトコが無いだけじゃなく、all・評価Aみたいな結果で、どっか変なんじゃないか、って逆に心配でしたが・・・・。親と、今の自分の身体に感謝して、大事にしよう、と実感しました。あの~、無理とかしちゃダメですよ。奥さん大事になさってくださいね。

  5. 招き猫 の発言:

    dropさん、いらっしゃい!。>人はつらい経験を乗り越えて強くなるのですね。その通りだと思いますが、抗がん剤をうつなんて事は、誰にも経験して欲しくないなぁ。でも、この記事を読んでいただいて、dropさんが何かを感じ取って貰えたみたいで、私は嬉しいです。ながなが書いて疲れましたけど、全て報われました(笑)!。

  6. 招き猫 の発言:

    おぉ!まるさん、ようこそ!。こっそり通ってくださっていたのですね。ご覧になっていただいて嬉しいです!。いざとなると、女性って強いですね。うちのカミさんの事です。へこたれませんもんね。まるさんも、そういう追い込まれた状況になると、女性の強さを発揮するんですよ!きっと。宝くじ・・・カスリもしませんでした。ツイていたのは、悪い事だけだったようです・・・。

  7. 招き猫 の発言:

    pazooさん、まいど!。キンタの大冒険って歌ありましたよね・・・。でも本当、最初の絶望的な展開から始まって、退院までの4ヶ月間もの凄い体験でした。もう一回やれと言われても、できないだろうなぁ・・・。pazooさんも、病気だけは気を付けて下さいよ。普段の摂生が病気から身を守るのです・・・。って、自分にも言ってるんですけど。

  8. 招き猫 の発言:

    紫さん、いらっしゃい!。なんかこのお話を書くのに、変な悲壮感だけは出したくなかったんですよ。ここに来てくださった方に、少しでも病気に気を付けようって思ってもらえたらいいなって事と、避ける事が出来ない困難なら、前向きに立ち向かえば、得るものがあるかも知れないって事です。ほんと!健康って素晴らしいですね。病気になるまで気付かなかったです。私はアホですから、病気から6年も経つとそんな事は忘れてしまいそうになります。この記事を書いて、その事が再確認できたし、また忘れそうになったら、自分でここに来て思い出そうと思っています。

  9. やぶ の発言:

    抗癌剤って身体がバラバラになって行くほど辛いのです。しかも、やればやるほど、患者さんの辛さが増していくという薬です。最近は、副作用を抑える薬も出来てきましたので、吐き気などは随分とましにはなりましたけどね。実際に治療を経験された方の正直な生の声を聞かせて頂くのは、とてもためになります。樋口強さんと言う方が書かれた「いのちの落語」という本があります。肺癌になって、手術して、抗癌剤を使って・・。私はこの方の話を聞いていて(落語のCDもついてます)、ほんとうに勉強になりました。それだけではなく、落語で笑ったり、ホロリときたり。いい本ですよ。

  10. 招き猫 の発言:

    やぶさん、いつもありがとうございます!。吐き気止め、私も入れてもらっていたのですが、私の頃よりも良くなっているんですかね。私の時は「これ利いてるの?」ってなもんでしたが、でもはずしたらもっとひどい事になっていたかも・・・。看護師をやっているカミさんが、WBCって言うんでしたっけ?ワイセってやつ。あれが3桁になっているのを見て、ビビリまくっておりました。抗癌剤ってめっちゃ怖いですよね。身体がバラバラになって行くって表現、goodです!。「いのちの落語」是非探して見ます。私、落語も好きなんで、読んでみたいです!!。

  11. satoshi の発言:

    ガンて切り取るだけじゃ済まないんですね・・ここまで壮絶とは恐れ入りました((( ;゜д゜)))カミさんに感謝ですね★あと、言葉足らずで・・一個だけになって「便利」って言ってたのは、聞いてみたら、なんか禿げる可能性が低くなったし、まあ「気持ちが落ち着いたから」だそうですwそれなら俺も一個でもいっかなぁとか思ってたんですけど・・うぅん・・>難易度A多分俺もです!!笑輸血の時に1時間かけて100mlくらいかな・・しかとれなかったという。。針刺されてるこっちはたまらんでしたよ。。

  12. 招き猫 の発言:

    サットゥーシさん、いらっしゃ~い!。え~!私、髪の毛進んでるんですけどぉ・・・。一個になっても変わらない気がいたしますよ。難易度A。針を入れる看護師さんにとって、私の存在はかなりの恐怖だったようです。ただ、私としてもうまく入れて貰うコツを掴みました。入れて貰うときに、「痛くしないで」とか「一度で入れてね」など、看護師さんにプレッシャーをかけると失敗します。逆に「練習のつもりでさ、何度刺しても怒らないからさ!」等と言ってあげると一発だったりします。若い看護師さんが、結構ビビリながら来るんで、よくそう言ってあげたものです。すると、一発で入るんですねぇ。すると彼女たちは「なんか、今日いい事あるかも」とか「先輩に自慢する!」と言って喜んで帰っていきました。難易度Aの招き猫は、若い看護師さんに”もてもて”でしたよ!。

  13. たまご の発言:

    ご無沙汰してました。ブログは一時停止してました。更新していない間に招き猫さんのご訪問嬉しかったです。気に掛けてもらって・・・本当にありがとう。いっきにブログ読ませてもらいました。過去の闘病生活がつづってあり早期発見で良かったです。やはり招き猫さんは運の強いお方と思いますよ!私の親族でもガンでなくなった方いるのですが病名は膵臓癌でした。病院に行ってはみても最初は胃腸風邪でしょと言われそれでも様子は変わらずに次の病院に行ったら胃と大腸が少し腫れてると診断されさらに詳しく診断するにあたり病院を変わりそこで検査し切開してみたところ膵臓から転移し大腸と胃にも転移みられ末期と言われてしまいました。場所が悪くて膵臓はなかなか早期発見は難しいようです。体の異変気がついた頃は手の施しようもない状態が大半なんだそうです。だから招き猫さんはラッキーです。そして奥様の看病にもきちんとねぎらっておられ仲の良さも伺えます^^これからも健康面大事になさって下さいね。

  14. 招き猫 の発言:

    たまごさん、いらっしゃい!。お忙しかったようですね。来ていただいて嬉しいです。たまごさんの言う通り、私の場合本当にいくつかのラッキーが重なったんですよ。一つは、本来痛みが出ない病気のはずが、何らかの原因で炎症を起こし、痛みだ出た事。もう一つが、たまたま掛かった病院が、泌尿器科に群馬大学から非常に優秀な先生を招いていてくれた事。10万人に1人という病気に罹ってしまった事は、運が無いとしか言えませんが、私には危機回避的な運は持ち合わせていたようです。ご親類の方は、大変お気の毒でしたね。癌と戦って亡くなるという事は、想像以上に壮絶なようです。本人が苦しむという事は、それを見守る人も同じように苦しいのです。私も気をつけますので、たまござんもお体だけはお気をつけ下さい。癌で死ななければならないような事だけは、避けたいですよね!。

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