瞼の裏側にはいつも笑顔の神様がいる

春の幻想①

1、川に来た訳

何となく生暖かい風が吹いていた。

この川の土手には、レンゲが一面に生えていて、今にも咲き出しそうにつぼみを膨らませていた。

時間はもうすぐ24時になろうとしている。

月も出てない真っ暗なはずの夜だが、何となく薄明るい気がする夜。

全てを失ってしまったと、そう思い込んでいた私はとうとう、ここに足を運んでしまった。

「このままこの川に入ってしまおう」

水鳥が一羽、川上に向かって鳴きながら飛んでいったのが見えた。


私はウェブコンサルタントの会社に所属していた。

企業のウェブサイトのデザインを考案し、より効率的な広告効果や経営戦略を企画すると言った仕事がメインだった。

私の会社での功績は高いものだった。

私の考案した企画はほぼ100%の確立で上手く行き、クライアントからの信頼は元より社内での評価もかなりのものだった。

私の企画は全て私の頭の中に入っていた。

他の社員は、企画する業種によってマニュアルを作り、それをデータベース化して保存していた。

私は各クライアント毎に全てオリジナルの企画を考案し、同業種でも差別化を図った。

担当した全てのクライアントの細かい要望なども、全て私の頭に入っていた。

それは、同僚社員にも決して漏らす事はなかった。

私が誠心誠意クライアントと付き合った結果が、そういったデータとして残っていると言う事が私には嬉しかったし、例え同僚や上司にだってそれを提供する気にはなれなかった。


ある日の夕方。

帰宅を急ぐ私のクルマの前に、一人の子供が飛び出した。

必死にステアリングを切り子供を助ける事はできたが、私のクルマは近くを走る首都高速道路の渋滞情報などを知らせるインフォメーションの電光掲示板を倒すほどの事故を起こす事になった。

大破した車の中で、私は真っ赤になった自分の身体で辺りを見回した。

私が命を救ったはずの子供の姿は見えなかった。

私はそのまま、救急車で運ばれた。

私の顔には大きな傷が残った。

そして手元には、損害賠償額が提示された請求書があった。

私が倒した電光掲示板は8000万円だった。

その額は、私が加入していた自動車保険の対物補償額である1000万円を大きく上回っていた。

私は会社に向かい、退職金や賞与の前借と、足りない分の借金を申し入れた。

しかし、会社はそれらを受け入れる代償に、私の頭に入っているクライアントの情報とウェブデザインやその他の戦略プランの提示を求めてきた。

仕方なく、私は会社に従った。

しかしその直後、会社は私に子会社への左遷の辞令を突きつけたのだ。

それまで付き合っていた女性は、その後私の元を離れた。

私は見ず知らずの子供を助ける為に、仕事も車も恋人も全てを失ってしまった。


時は春。

ピンと張り詰めたような空気が、やがて暖かい風に変わってくる季節。

今にも咲き出しそうなレンゲのつぼみ。

緩やかに流れる水面を、少しだけ暖かくなった川風が走り抜けてゆく。

全てを失ってしまった私は、この川の河川敷へやってきた。

つづく

コメント先: "春の幻想①" (10)

  1. (。・・。)(。. .。)うん つづく。。。(。・・。)(。. .。)うん

  2. 招き猫 の発言:

    姫。つづきます。今日は暇だったので、たった今全部書き終えた所。これから営業にでも行ってきますわ。明日UPします^^v。

  3. さらん♡ の発言:

    猫さん こんばんわぁ ・.:。 *・.:。 ・.・*.:。 .・*..::。・.:
    凄いなぁ・・・
    これ フィクションなんですかぁ?
    何だか・・・大切なこと 伝えたい小説なんですね ・.:。 *・.:。 ・.・*.:。 .・*..::。・.:
    猫さん つづき 楽しみだなぁ(‾◡◝❀)

  4. 招き猫 の発言:

    さらんさん。いえいえ、そんな大げさなものではないんですよ。今日は何となく、暇な日だったんですよ。カミさんは友達と会っているし、キアヌは幼稚園だし、仕事は入っていなかったし。夕方までこれを書き上げて、営業に回ってました。まぁ、へたっぴな文章ですが、後2回ありますので笑ってあげてください。

  5. さらん♡ の発言:

    ええっ@@; 暇で書いたのですかぁ~~
    さっすがぁ~~~
    猫さん! すごいですよぉ~~~
    さらん 猫さん。。。才能ある!って思います、まじですv
    文章の流れが ドンドン引かれていきますよ(‾◡◝❀)
    お仕事 お疲れ様でした *・.:。 ・.・*.:。 .・*..::。・.: *・.
    キアヌ君 可愛いな*^^* 今頃・・・・・

  6. 招き猫 の発言:

    さらんさん。いや~構想はあったんですけどね。なかなか書く暇が無くって・・・。今日は思い切って書いてみましたが・・・どうなんでしょう?。つづきを読んで、何だこりゃって思うかも知れませんよ(笑)。キアヌ・・・先ほどカミさんと一緒に寝むってしまいました。寝顔が・・・寝顔が・・・さらんさんにお見せしたい・・・。

  7. さうざんど の発言:

     すごい、迫力ある小説ですね。
    一つのアクシデントで下り坂をころころ転げおちる人生。
    しごとも、お金も、恋人も全部失って、さあ、これからどうなるんだろう。
     
     

  8. ねす の発言:

    は~い("⌒∇⌒")
    ( ̄o ̄*(_ _*( ̄o ̄*(_ _* ) ウンウン
    続きが楽しみよ~ヽ(*´▽)ノ♪
    σ(^。^) 転げ落ちたらもう雪だるまのように・・・^^;
    最近足元危ない!共感できました~

  9. 招き猫 の発言:

    1さうざんどさん。早速お越しいただいて、ありがとうございます!。主人公をちょっと高慢にしすぎちゃったかなと、反省しております。彼がこの場所で立ち直るきっかけとなった不思議な体験を、続編で書かせていただきますね!。

  10. 招き猫 の発言:

    あぐねすさん。さっそくコメを付けてくださいまして、ありがとうございます!。人間、何がきっかけで落ちていくかわかりませんね~。彼の人間らしい優しさが、立ち直るきっかけになるんですよ。つづきも読んでいただけたら、幸せでございます。

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